世界一不気味な遭難事故≪ディアトロフ峠事件≫の真相
ドニー・アイカー著 河出文庫
タイトルの素っ気なさからは想像できない面白さ。引き込まれて読んだ。
著者は、アメリカのTVプロデューサー。番組の取材のために、ソ連で1954年に起こった遭難事故の調査を始める。
自らロシアに行き、唯一の生存者にインタビューし、さらには事故発生と同じ厳寒のシベリア・ウラル山脈に登り、現場を確かめることまでする。
ディアトロフグループの遭難事故は、この本を読むまで知らなかった。ロシアでは有名な事故らしいが、著者自身が初めて知って、興味を持ち調べ始めたとのこと。
事故が起こったのは1954年2月。経験豊富な登山チームが凄惨な死体で発見された。全員が靴も履かず、上着も着ない状態で、テントから1km以上離れた場所で見つかっている。不気味な遭難事故として、未解決のままになっている。
ストーリーは、現在と過去を交互に行き来して進んでいく。現在の章では、著者がロシアに赴き、関係者に会い、調査を進めていく。事件当時の章は、登山チームの準備から出発、登山を開始し遭難場所にたどり着くまでが、日誌をもとに描かれる。この構成がいい。知識ゼロから読み始めても、無理なく話に引き込まれ、読みだしたら止まらなくなる。
本の最後では、著者が引き出したモデルに沿って、記録には残っていない事故の様子が描かれている。これから真相が明らかになることはないが、十分に納得のいく説明になっている。悲しい事故ではあるけれど、読書体験としては満足のいく結末になっている。
それにしても、1950年代の装備で冬のシベリアの山に登っていたグループがいたとはすごいことだ。